プラスチック [01]

 空は青く晴れ渡って、
 サクラの髪が揺れている。
 空にはUFOなど飛んでおらず、
 なんの特徴のない、いつも何も変わらない日。
 もう、みんな飽き飽きしているいつもと同じ日
「ねえ、もしキャラメルをもらって、
 それがプラスチックだったら
 どうする?」
 サクラが言った。
 遠くにある工場の煙突からモクモクと煙が立ち上っている。
「食べないね」
 スガオが言った。
「じゃあ、それ、
 どうするの?」
「んーーー
 どうするかな」
 空は二人を突き放すように、きれいな青で輝いている。
「どうせ、捨てるんじゃない?」
「そう、
 捨てちゃうの…
 なんで?」
「だって、そんなの持ってて
 どうするの?
 なんの役にもたたないだろう?
 キャラメルの形をしたプラスチックなんて、
 おいしくないし、
 プラスチックなんて
 食べられない
 意味ないよ」
「そうだよね、
 キャラメルのプラスチックなんて
 なんの役にも立たないよね…」
「うん、どうしようもないね
 ままごとくらいには
 使えるかもしれないけどね」
 空。
 雲。
 煙。
 風。
 サクラの髪、揺れる揺れる。
 スガオはそれを見ているのが好きだった。
「でね、
 これが、そのキャラメルなの」
「ぶっ!!」
 スガオの驚いた表情。
 それを楽しむかのようなサクラの表情。
 青空にはUFOの変わりにジェット機が飛んでいった。
 
 
「それ、どうしたの?」
 スガオが言った。
「ん?だからもらったの
 キャラメルだって…
 でも、これプラスチックなのよね」
「プラスチックなの…
 って、それ、
 誰にもらったのさ」
「スティングレイさん」
「すてぃんぐれい?さん?
 誰?それ?」
「虹屋なの」
「にじやって何?」
「知らない」
 スガオはサクラの顔をじっと見つめた。
 じっと、
 じっと、
 サクラは顔を赤くして、顔をそらした。
「え?
 えーと、こほんっ」
 スガオも顔を赤くしてわざとらしく咳払いをして、
 サクラの持っているキャラメルの箱を指さした。
「ホントなの?
 虹屋の
 スティングレーさんが、
 プラスチックのキャラメルを
 サクラに
 くれたの?」
「うん」
「なんで?」
「お礼だって」
「何それ?
 夢?」
「現実…」
 サクラが真剣な目をして言った。
「ホントなんだ…
 それ見せて」
「いいよ」
 サクラがキャラメルの箱をスガオに手渡した。
 スガオはそれをじっと見回して、
 ふたを開けてみる。
 中には包装紙に包まれた普通のキャラメルが入っていた。
 それを一つとりだして、包装紙をあけてみる。
 見た目はなんの変哲のないキャラメルだった。
「これがプラスチックなの?」
「うん」
「なんで、わかったの?
 プラスチックって」
「横のところにね
 書いてあるでしょ」
 スガオはそのキャラメルの横を見た。
 本当に『プラスチック製』と書いてある。
「それにね、
 味がしないし、
 全然溶けないの」
「口に入れたの…?」
「うん
 でも、大丈夫
 私が食べたのは入ってないから」
 スガオはキャラメルを元の包装紙に包み箱の中に戻した。
 箱にも書いてあった。
 商品名:キャラメル。
 原材料:プラスチック。
 内容量:十六個。
 スガオは腕時計を見た。
 腕時計の針は二時二十五分を指していて、
 曜日は日曜日になっている。
 頬をつねる。
「痛い…
 本当だ」
 そう言いながらスガオはプラスチックのキャラメルの箱をサクラに返した。
「それで、それ、
 どうするの?」
「どうしよう
 ねえ?」
「そうだね。
 なんだか捨てるにはもったいない
 気がする」
「スガオも
 そう思うでしょう?」
「うん
 とりあえず、持ってたら?」
「そうする」
 空には、さっきまでと何も変わらない青空が広がっている。
 スガオにはそれがさっきより近くに見えた。
 工場の煙は相変わらず空に昇っていく。
「これはきっと魔法のキャラメルなんだよ」
 サクラが言った。
「プラスチック製の?
 それに、
 虹屋のスティングレーさんって何なの?」
「知らない
 昨日、アマキサキのバス停で会ったの
 スティングレーさん道に迷ってて
 道を聞かれたから
 教えてあげたら
 お礼にってこれをくれたんだ」
「本当なんだ」
「うん」
「ねえ、それ一つもらえる?」
「いいよ」
 サクラはキャラメルの箱を開けて一つスガオに渡した。
 それは本当に外見だけなら、なんの変哲もないキャラメルだった。
「プラスチック…」
 スガオはそうつぶやいて、それを空に向けて眺めた。
 かざしたキャラメルと空との対照的な感じが、
 美しいわけはなかった。
 ただの空と
 ただのキャラメルじゃなくてプラスチック製。
 おもしろくも何ともないが
 小さな子供の頃の懐かしい匂いが少しスガオの中で甦った。
 なんだか、わからない宝の地図で、
 なんだか、わからない宝を探しに
 みんなで出かけた。
 あの半分真剣で、半分冗談の
 あのころの感覚がこのキャラメルには感じられた。
 そして、空にはジェット機の作った飛行機雲が浮かんでいた。
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