プラスチック [02]

 次の日、
 学校の帰り、
 サクラは一人で公園にいた。
 ベンチに座り、スティングレーからもらったプラスチックのキャラメルの箱をただ眺めていた。
「なんなんだろうねぇ
 これ…」
 その日も晴れていて、
 木々の緑が美しく輝いている。
 ベンチに寝転がって、太陽に重ねてその箱を見てみる。
 すると、そのキャラメルの箱から小さな天使が出てきて、
 サクラの願いを何でも叶えてくれる
 なんてことはなかった…
 何も変わらない。
 ただのキャラメルの箱。でもプラスチック製。
「お嬢さん。
 それはプラスチックじゃないですか?」
 寝っ転がったサクラの頭の方からしわがれた、けれどすっきりした声が聞こえた。
「え?」
 サクラが声のした方を向くとそこには杖を持った小ぎれいなおじいさんが立っていた。
 ベンチに寝っ転がっていたサクラはあわててベンチに座り直して、
 顔を赤くして言った。
「ええ、そうなんです
 でも
 なんで、わかるんですか?
 見た目はキャラメルにしか見えないのに…
 もしかして、おじいさんも虹屋さんですか?」
 おじいさんはサクラの横に座った。
「虹屋?
 いえいえ私はただのじいさんですよ」
 おじいさんはにこにこ笑ってそう言った。
「お嬢さん。
 お若いのに、虹屋を知ってるのですか?
 それに、プラスチック…
 最近は全然見ない。
 珍しいものをお持ちですね」
 おじいさんの柔らかなしゃべり方は初対面なのにサクラの心をなごませた。
「私、これが何か知らないんです。
 ただ、もらったんですけど、
 これキャラメルって書いてあるのに、
 プラスチックで食べられないんですよ」
「ふふっ
 そうですか、
 お嬢さんプラスチックが何かをを知らずに
 もらったんですね。
 虹屋も最近は全然見かけないですからね。
 知らないのは当然ですかね」
「おじいさん、
 これのこと知ってるの?
 もし良かったら、
 教えてくれませんか?
 ずーっと気になってるんです」
「ふふっ
 いいですよ。
 私が子供の頃は
 虹屋を結構見かけたんですよ、
 もっとも、最近は虹自体あまり見ませんね。
 空に架かる虹があるでしょう?
 虹屋っていうのはですね。
 あの虹をつくっている人のことなんです」
「え?
 虹って人間がつくってるの?
 知りませんでした」
「虹屋が人間かどうかは
 私も知りませんが、
 見た目は人ですね、うん
 ちなみに私の友達は虹屋は神の使いだっていってました。
 どうなんでしょうね。
 そうかもしれませんし、
 そうじゃないかもしれません。
 お嬢さんが人間に見えたのだったら、
 人間なのかもしれません」
 サクラはなんだか、すごいことを聞いているようで、
 胸がドキドキしてきた。
「プラスチックっていうのはですね
 簡単にいうと虹の種なんです。
 キャラメルっていうのはその種類の名前です。
 ほら、
 煙草にもいろいろな種類があるじゃないですか。
 キャスターとかピースとか
 それと同じです。
 だから、それはキャラメルっていうプラスチックです
 プラスチックの中では一般的な種類ですね。
 虹屋が作り出すほどの大きな虹は作れませんが
 キャラメルでつくる虹でも
 美しさはそれと変わりません。
 それは美しい虹が出来ますよ」
「本当?
 おじいさん、これの使い方知ってるんですか?」
「ふふっ、
 使い方も何も簡単ですよ。
 種ですから、土に埋めてあげればいいんです
 そうすれば虹が空に向かって、
 虹が出来ます」
「おじいさん、
 これをちょっと使ってみてもらえませんか?」
「え?」
 おじいさんは、びっくりしてサクラの顔を見た。
「いいんですか?
 プラスチックは本当に貴重なものですよ。
 私が子供の頃にも虹屋に
 会ったことのある人は少なかったですし、
 それをもらえる人はもっと少ないのです。
 私も子供の頃に隣の家の友達が持っているのを
 見たきりで、実際にもらったことはありませんでした」
「いいんです。
 お願いします」
 と言って、サクラは箱からプラスチックを一つ取り出しておじいさんに手渡した。
 おじいさんはそれを受け取って包装紙を開け取り出し、
 プラスチックのキャラメルを見回した。
「本当にプラスチックですね。
 ふふっ、
 私もドキドキします。
 友達が使うのを見たことはありますが、
 実際自分でプラスチックを使うのは初めてです。
 まさか自分が虹を作れるなんて
 思いもよりませんでした」
 おじいさんは、本当に嬉しそうに笑いサクラの方を見た。
「私も
 ドキドキします。
 本当にそれで虹が出来るの?」
 サクラがそう言うと、
 おじいさんは楽しそうに微笑んで、ベンチから立ち上がり、杖で地面に穴を掘り始めた。
「ふふっ
 なんだか、魔法使いにでも
 なった気分です」
「私もなんだか、
 おじいさんが魔法使いに見えます」
 おじいさんはそれを聞いて
 穴を掘りながらサクラの方を向いて片目をつむりウィンクした。
 サクラは、その姿がおじいさんにとても似合ってる感じがした。
 まだ、何も起きていないのになんだか楽しくなってきた。
 虹?
 虹の種?
 本当にここから虹が生まれるの?
 私、夢でも見てるのかな?
「これくらいかな?」
 握り拳が入るくらいの穴が出来たのを見ると、
 おじいさんはそう言って、
 その中にプラスチックを入れた。
 そして、その上に土をかける。
 掘りあげた土を全部かけ終わると、おじいさんはサクラのいるベンチに戻り座った。
「しばらくしたら。
 始まりますよ」
 サクラはじっとプラスチックの埋められたところを見ていた。
 ……
 ……。
 何も始まらない。
 サクラは不安そうに埋められたところと
 隣のおじいさんをきょろきょろと見比べた。
 おじいさんは満足そうに微笑んでいる。
「ふふっ
 そんなに心配しなくても大丈夫ですよ」
 しかし、サクラの心中は穏やかではなかった。
 もし、
 これが、おじいさんのいうとおりのプラスチックじゃなかったら、
 どうしよう?
 こんな楽しそうなおじいさんのがっかりする顔は見たくないな…
 サクラは何も起こらないその地面をみてだんだん心配になってきた。
 私の会った人が本当に虹屋だっていう確証はないし、
 あの人が嘘をいってたってことだってありえるし…
 おじいさんに使ってなんて言わなければ良かったな…
 使い方を聞いて後で私一人の時に試してみれば良かったんだ…
 何も起こらなかったら、どうしよう…
 サクラがそんなことを心配していると横でおじいさんが言った。
「ほら、始まりますよ」
「え!?」
 見るとプラスチックを埋めたところから光の筋が何本か空に向かって伸び始めていた。
 だんだん光の筋の数は増えていく。
 やがてそれは光の固まりとなって、地面から顔を出し、
 だんだん、それは大きくなっていった。
 最後にぐぐっっとそれが持ち上がったかと思うと、
 その瞬間、その光の固まりはものすごい速さで七色の尾を引いて空に伸びていった。
 その七色の中ではキラキラ光る小さな光の粒が踊っていた。
 その様は、サクラが今まで見た何よりも美しかった。
 飛んでいった光はやがてカーブを描き公園の向こうに落ちていって、
 半円の虹が出来上がった。
 七色の虹の中でキラキラと光の粒は踊り続け、それは何か意志をもっているようで実に楽しそうだった。
 公園にいる子供やその親や全ての人間がその光景に目を奪われる。
「キレイ…」
 もちろんサクラもその光景に目を奪われ、さっきまでの不安など何処かに吹っ飛んで、それに夢中になった。
「おじいさん…
 なんて、キレイなの…」
「本当ですね、
 私もこんな近くで虹を見るのは
 子供の頃以来です。
 こんなに美しかったのですね…
 忘れていました…」
 その後二人は無言で、
 ただ、ただ虹を見続けていた。
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