プラスチック [03]

 次の日。
 空は相変わらず晴れていた。
 晴れの日はここ一週間ずっと続いていた。
 工場からの煙も、相変わらず昇っている。
 ずっと前から変わらないこの景色の
 青空。工場の煙。遠くの電線、町並み。手前に広がる草。
 お世辞にも、その眺めは美しくなかったが、
 スガオはここから見えるこの景色が好きだった。
 空の下、いつもの場所で、スガオは学校を休み、ひとりで寝っ転がっていた。
 この平和でのんびりしている毎日に飽き飽きしているスガオだが、
 ここにいるとそれもなんだか忘れてしまう。
 遠くで学校の鐘の鳴る音がした。
 そろそろ、午前中の授業も半分すぎただろう。
 風が気持ちよくながれていた。
 少し、肌寒くなってきたこの空気もすがすがしくちょうどいい。
「ねぇ、虹の作れようになったら、
 どうする?」
「えっ!?」
 いきなり、いないはずのサクラの声がして、
 スガオはびっくりして起きあがった。
 見ると、サクラが横にいた。
「…いつ来たの?」
「ん?
 今さっき」
「いきなり、声をかけられたら
 びっくりするだろう?」
「だって、スガオ寝てたから
 起こしたら悪いかなぁと思って」
「寝てないよ びっくりさせるために
 わざとだろ」
 サクラがとぼけるように笑い、
 風が吹いて、サクラの髪が揺れた。
「で、何?」
「だから、
 虹を作り出せるようになったら、
 スガオなら、どうする?」
「にじ?
 虹ってあの空にかかる虹?」
「うん」
「虹…
 まあ、とりあえず、
 他の奴に自慢するかな?」
「やっぱり!?」
 サクラが顔をスガオの方につきだしてそう言った。
 二人が子を見合わせる。
「え?」
 そう言ってスガオが首を傾げると、
 その時!
 ちょうど、スガオの後ろから光のかたまりが、
 町並みの方にものすごい速さで虹の尾を引いて飛び出していった。
「おおおおおおっっ!!」
 スガオはそれを見て言葉にならない声を上げた。
 あっという間に虹は架かり、スガオのすぐ目の前で虹が輝いていた。
 七色の光の中でキラキラと輝く光の粒が踊っている。
 スガオがその光景に目を奪われたのは言うまでもない。
 スガオのその呆けた顔を見て、
 満足そうに、いたずらっ子の笑みでサクラが笑っている。
 スガオは虹を見続けて、しばらく口を開かなかった。でも口は開いたままだった。
 そして、スガオの口から何とか出た言葉は
「何、これ?
 すごい…」だった。
 スガオはやがて我に戻り、その虹を指さし、サクラの方を見た。
「何?
 これ、サクラがつくったの?」
「うんっ」
 サクラは元気よく答える。
「ホントに?」
「うん」
「すごいじゃん…」
「でしょー」
「うん」
 スガオは軽く頭を振った。
「え?
 でも、どうやって造ったのさ」
「じゃーん」
 サクラはスガオにプラスチックの入った箱を突きつけた。
「ん?
 キャラメル?
 
 
 …虹屋の、スティングレー、
 …って、もしかして、
 それで造った?」
「うん」
「それって、何
 虹の素だったの?」
「うん、
 正確には違うんだけど、
 これはね
 虹の種だったの!」
「種っ?
 でも、キャラメルって
 書いてあるじゃん」
「私も昨日
 たまたま会ったおじいさんに
 教えてもらっただけなんだけど、
 プラスチックっていうのは
 虹の種のことで
 キャラメルっていうのは
 その種類のことなんだって」
「虹の種の?
 キャラメル?」
「ふふっ
 煙草にキャスターとかマイルドセブンとか
 あるでしょう?
 それみたいに虹の種にも
 種類があって
 これはキャラメルっていう種類なんだって」
「つまり
 虹の種のことを
 プラスチックって言って、
 それはキャラメルっていう
 ブランドなわけ?」
「大正解!」
「ふーーん」
 と言って、スガオはまた虹を見た。
 すぐ目の前に虹があった。
 さっきより色が薄くなってきたが、まだキラキラと光の粒はその中で踊っていた。
 スガオは虹の中に手を入れてみた。
「熱くないんだ…」
 それに、踊る光の粒をさわることはできなかった。
 光の粒はスガオのその手をすり抜けて踊り続けた。
「すごいでしょ?」
 そう言うサクラはなんだか誇らしげだった。
「うん、
 すごいよ」
 スガオは子供のような顔で素直にそう言った。
「素直に、そう言われると
 へへへ…」
 サクラは頬を軽く赤くして、頭をかいた。
「でも、それで
 どうやって造るの?
 呪文でも唱えるの?」
「ふふふふ、
 そんなことしないよ。
 言ったじゃない
 これは種。
 虹の種なの」
「じゃあ、つまり」
 スガオはそう言って地面を指さした。
「そう、
 土に埋めるの」
「水とかあげたりは…」
「土に埋めるだけ
 そうすれば勝手に虹が飛び出すの」
「すごいね」
 スガオはまた虹を見た。
 虹の色はずいぶん薄くなって、光の粒もだいぶ減ってきた。
「でも、そんな簡単に使ったら
 もったいないんじゃない?」
「ん?
 でも、これね
 使用期間があって、
 一つの季節、だいたい三ヶ月しか
 もたないんだって
 それ以上たつと土に埋めても虹は出なくなるって
 昨日のおじいさんが言ってたんだ」
 スガオは虹のあったところを見た。
 虹はもうほとんどなくなっていた。
「花火みたいだね
 キレイだけどすぐ消えちゃう…」
「うん」
 虹のなくなっていく空は今までと何も変わっていない。
 今、そこに、すぐ目の前に虹があったなんて嘘のようだった。
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